損益通算と繰越控除:株式の損失で税金を取り戻す仕組み
2026-04-18
損益通算と繰越控除の基本
株式投資で利益も損失も出た年は、損益通算と繰越控除という制度によって、税金の負担を軽減できる可能性があります。
- 損益通算: 同じ年内の利益と損失を相殺する
- 繰越控除: その年に通算しきれなかった損失を、翌年以降最大3年間繰り越して将来の利益と相殺する
どちらも確定申告をすることが適用の条件です。
損益通算の仕組み
対象所得
上場株式等の譲渡損失は、以下の所得と損益通算できます(申告分離課税選択時)。
- 上場株式等の譲渡益(株式・ETF・REIT・株式投信の売却益)
- 上場株式等の配当所得(申告分離課税を選択した配当)
- 特定公社債等の利子・譲渡益(国債・地方債・公募社債など)
計算例
2026年に以下の取引があったとします。
- A証券 売却益: +30万円
- A証券 売却損: -20万円
- B証券 売却益: +40万円
- B証券 売却損: -80万円
通算前の純損益: +30 - 20 + 40 - 80 = -30万円(損失)
特定口座(源泉徴収あり)を選んでいる場合、各証券会社内では以下のように自動処理されます。
- A証券: 30 - 20 = +10万円 → 源泉徴収 約2.03万円
- B証券: 40 - 80 = -40万円 → 源泉徴収なし(損失なのでゼロ)
この状態で確定申告をしないと、A証券で徴収された約2.03万円はそのまま国庫に入ります。しかし確定申告をして損益通算すれば、全体では-30万円なので課税対象はゼロとなり、A証券で源泉徴収された約2.03万円が還付されます。
申告には「どちらの源泉徴収も申告対象にする」必要
複数証券会社の特定口座(源泉徴収あり)をまとめて申告する場合、片方だけを申告することはできません。申告する全ての口座分を合算する形になります。
繰越控除の仕組み
概要
損益通算後もまだ損失が残った場合、翌年以降3年間に繰り越して将来の利益と相殺できます。
計算例
上記の例で2026年に-30万円の損失が残ったとします。その後:
- 2027年 純利益: +10万円 - 2026年の繰越損失と相殺 → 課税対象ゼロ - 残り繰越損失: -20万円
- 2028年 純利益: +25万円 - 繰越損失-20万円と相殺 → 課税対象5万円 - 繰越損失は使い切り
- 2029年 純利益: +40万円 - 繰越がないため全額課税
このように、利益が出た年の税金を損失と相殺して軽減できる仕組みです。
要件:毎年の確定申告が必要
繰越控除を適用するには、損失発生の年から毎年連続して確定申告をしなければなりません。1年でも申告を飛ばすと、それまでの繰越はリセットされます。利益がない年でも「本年分は繰り越すだけ」の申告が必要です。
特定口座の場合の自動計算
特定口座(源泉徴収あり)を選択している場合、1つの証券会社内での損益通算は自動で行われ、配当と売却損益もその口座内で自動通算されます(配当受取方式が株式数比例配分方式の場合)。
- 同一証券会社内の利益と損失 → 自動通算(還付含む)
- 同一証券会社内の配当と譲渡損 → 自動通算(株式数比例配分方式時)
しかし、以下は自動では処理されません。
- 別の証券会社との損益通算
- 前年以前からの繰越損失の適用
- NISAの配当受取方式を「領収証方式」にしている場合の配当
これらは確定申告で手動で行う必要があります。
損益通算できないケース
NISA口座の損益
NISA口座で発生した損失は、特定口座・一般口座の利益と損益通算できません。また、NISA口座の損失を繰り越すこともできません。
一般口座と特定口座の間
同一人物の一般口座と特定口座の損益は、確定申告で合算すれば通算可能です。これは問題ありません。
株式以外の所得との通算は制限あり
上場株式等の譲渡損失は、原則として上場株式等の譲渡益・配当所得・特定公社債の利子としか通算できません。給与所得や事業所得とは通算できない点は要注意です。
また、未上場株式(一般株式等)の譲渡損益とも原則として通算できません。上場株式の損失と未上場株式の利益を相殺することはできない仕組みです。
総合課税を選んだ配当とは通算不可
配当所得は総合課税と申告分離課税のどちらかを選べますが、総合課税を選んだ配当は上場株式等の譲渡損失と通算できません(配当課税のコラム参照)。損益通算したい場合は申告分離課税を選ぶ必要があります。
実務上の注意点
確定申告の住民税への影響
確定申告をすると、住民税の扶養判定や国民健康保険料の算定に株式譲渡益が反映される場合があります。主婦・学生・自営業の国保加入者は要確認です。
かつては「所得税は申告、住民税は申告不要」という別々の方式が選べましたが、2022年分の確定申告から所得税と住民税の課税方式は一致させるルールに変更されました。このため、還付目的で確定申告をしたら扶養から外れた、国保料が上がった、というケースが以前より起こりやすくなっています。
損失がある年は申告した方が有利なことが多い
損失がある年は、繰越控除のために確定申告をしておくことで将来の税負担を減らせる可能性があります。手間はかかりますが、損失額が大きいほど恩恵も大きくなります。
ただし、前述のとおり住民税や国保料への影響があるため、無条件に「全員申告した方が良い」とは言い切れない面があります。
まとめ
| 制度 | 内容 | 要件 |
|---|---|---|
| 損益通算 | 同年内の利益と損失を相殺 | 特定口座内は自動、それ以外は確定申告 |
| 繰越控除 | 残損失を翌年以降3年間繰越 | 毎年連続して確定申告 |
損益通算・繰越控除は、損失を出した年にしか効果が見えないため見落とされやすい制度ですが、長期で株式投資をする場合には税負担を大きく左右する可能性があります。仕組みを理解しておくことで、必要な場面で適切に申告できる準備ができます。
参考リンク
- [国税庁 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除](https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm)
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免責: 本記事は用語・制度の一般的な解説であり、投資助言を行うものではありません。実際の投資判断はご自身の責任で行ってください。税制・制度の詳細は変更される可能性があるため、最新情報は各所管官庁の公式サイトでご確認ください。